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労働保険料とは、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険を総称した労働保険に必要な費用にかかる保険料のことです。
労災保険と雇用保険は、給付は別個に行われるものの、いずれも政府が管掌する保険制度であり、農林漁業や建設業などを除いて保険料の申告と納付は一元的に取り扱われます(一元適用事業)。
そして労働保険料の額は、次の式のとおり賃金総額に労働保険料率を乗じて求めた額です。
労働保険料=賃金総額×労働保険料率(労災保険料率+雇用保険料率)
労働保険料には労災保険料が含まれていますが、労災保険料は事業主が全額負担します。
そもそも業務災害が起こったときに事業主が労働者に療養補償や休業補償をする義務が労働基準法によって課されており、その責任を政府が運営する保険に転嫁しているというのが労災保険です。
労災保険によって間接的とはなるものの、あくまでも療養補償や休業補償は事業主の責任(義務)であるため、労災保険料は全額が事業主負担とされています。
なお、労災保険料は事業の種類(リスク)ごとに労災保険率が設定されており、林業や漁業、鉱業、建設事業、製造業、運輸業を除いておおむね0.3%です。
参照:厚生労働省「労災保険率表」
比較的大規模の事業所では、その事業場の労災リスクにあわせて労災保険率を増減させるメリット制という仕組みがあります。
労災保険料と異なり、雇用保険料は労働者も負担します。ただし事業の書類によって保険料率が異なるのは労災保険と同じです。
雇用保険料率を以下の表にまとめました。令和4年度(令和4年4月1日から令和5年3月31日まで)は、保険年度中に保険料率が変わる点に注意が必要です。
労働者負担
事業主負担
雇用保険料率
令和4年4月1日から令和4年9月30日
0.30%
0.65%
0.95%
0.95%令和4年10月1日から令和5年3月31日
0.50%
0.85%
1.35%
参照:厚生労働省「令和4年度雇用保険料率のご案内」
労災保険には、労働者ではないものの、労働者に準じて保護することが適当であると認められる(労働者性がある)場合に、特別に任意加入を認める特別加入制度があります。
特別加入制度における労災保険料を特別加入保険料と呼び、中小事業者等は第1種特別加入保険料率、一人親方等は第2種特別加入保険料率、海外派遣者は第3種特別加入保険料率によって保険料を計算します。
・第1種特別加入保険料率:労災保険率と同じ
・第2種特別加入保険料率:特別に定められた保険料率
・第3種特別加入保険料率:0.3%
印紙保険料とは、労災保険の日雇労働被保険者における雇用保険印紙による保険料です。なお雇用保険法における日雇労働者は次のとおり説明されています。
雇用保険法における日雇労働者とは、日々転々と異なる事業主に雇用され、極めて不安定な就労状態にある労働者で、次のいずれかに該当する者をいいます。
① 日々雇用される者
② 30 日以内の期間を定めて雇用される者
引用元:厚生労働省「第 14 章 日雇労働被保険者の給付について」
さらに日雇労働被保険者とは、日雇労働者のうち適用事業に雇用される者やハローワーク(公共職業安定所長)の許可を受けた者です。
もし日雇労働被保険者を雇い入れた場合は、賃金を支払う都度、日雇労働被保険者手帳に雇用保険印紙を貼付けた後、届出印によって消印を行うことによって印紙保険料を納付します。
等級
賃金日額
印紙保険料
事業主負担
第1級
11,300円以上
176円
88円
第2級
8,200円以上11,300円未満
146円
73円
第3級
8,200円未満
96円
48円
参照:厚生労働省「雇用保険事務手続きの手引き」
参考:一般拠出金(石綿健康被害救済法)
労働保険料ではありませんが、石綿健康被害救済法の規定により、労働保険の確定保険の申告・納付とあわせて一般拠出金を負担しなければなりません。
一般拠出金は事業の種類にかかわらず、労災保険の確定賃金総額に0.002%を乗じた金額です。
労働保険料の計算方法を、簡単な例とともに紹介します。
まず、一般事業において労働者1人に毎月30万円の賃金を支払ったとしましょう。このとき、賃金総額は360万円です。一般事業の労働保険料率を1.25%(労災保険率0.30%と雇用保険料率を0.95%)とすれば、労働保険料は4.50万円となります。
このうち、被保険者負担分の雇用保険料負担率を0.30%として概算すると1.08万円です。
したがって事業主負担分は、労働保険料4.50万円から被保険者負担分1.08万円を差し引いた額、すなわち3.42万円となります。
もっとも、令和4年度の雇用保険料率は保険年度の途中で変更されるため、実際にはこの例のとおりには計算できません。また、労災保険分の確定賃金総額と雇用保険分の確定賃金総額は異なる場合があります。
労働保険料算定の基礎となる賃金総額とは、雇用保険法上の賃金のことを指し、具体的には事業者が労働の対償として労働者に支払うものをいいます。
賃金総額に含まれるものと含まれないものについて、主なものを下表にまとめました。
賃金と解されるもの
賃金と解されないもの
基本給
出張旅費
固定給
見舞金や祝金
深夜手当
休業補償費
休日手当
出産手当金・傷病手当金
家族手当
退職金
参照:厚生労働省「第6章 賃金について」
労働保険料に関する端数処理は次のとおりです。なお被保険者負担分の雇用保険料を賃金から控除するときは、労使間で特約があればその方法によっても差し支えありません。
・確定賃金総額:1,000円未満は切捨て
・労災保険分確定保険料:1円未満の端数は切捨て
・雇用保険分確定保険料:1円未満の端数は切捨て
・一般拠出金:1円未満の端数は切捨て
・延納時の期別納付額:1円未満の端数は第1期分に加算
・雇用保険の被保険者負担分(賃金から控除するとき):50銭以下は切捨て、50銭超えは切上げ
労働保険料は、6月1日から7月10日(土日除く)までの間に、前年度分の保険料の過不足精算と来年度分の概算保険料の申告・納付をまとめて行います。
これを労働保険の年度更新といいます。なお、労働保険の保険年度は4月1日から翌年3月31日までです。
労働保険料の仕訳は、中小企業で主に採用されている簡単な仕訳処理と、税務上正しい仕訳処理の2つに大別できます。
それぞれ紹介していきますので、ぜひ参考としてみてください。なお、労働保険料は消費税の課税対象外です。
労働保険料の簡単な仕訳処理として、従業員負担分も法定福利費としてまとめて処理してしまう方法が多くの中小企業で採用されています。
概算保険料納付時は次のとおりです。
借方科目
|
借方金額
|
貸方科目
|
貸方金額
|
法定福利費
|
45,000
|
預金
|
45,000
|
雇用保険料の被保険者負担分を、賃金から控除するときは次のとおりです。従業員負担分の雇用保険料は費用(損金)ではないので、費用を取崩していきます。
借方科目
|
借方金額
|
貸方科目
|
貸方金額
|
給料手当
|
XXX
|
預金
|
XXX
|
法定福利費
|
900
|
年度更新において精算する際、追加納付なら次のとおりです。仮に還付を受けた場合には貸借が逆になります。
借方科目
|
借方金額
|
貸方科目
|
貸方金額
|
法定福利費
|
1,000
|
預金
|
1,000
|
従業員負担分の保険料まで法定福利費としてしまっている点に問題はありますが、法定福利費を計上して取崩すだけなので処理自体はわかりやすいです。
前提として、保険年度(4月から翌年3月まで)に対応する概算保険料を7月1日に申告・納付するものとしましょう。
4~6月分に相当する労働保険料の仕訳処理
4~6月分に相当する労働保険料は、発生こそしているものの7月1日になるまで支払っていません。そこで各月ごとに、賃金実績をもとに事業主負担分は未払費用、従業員負担分は預り金として流動負債にしておきます。
借方科目
|
借方金額
|
貸方科目
|
貸方金額
|
法定福利費
|
2,850
|
未払費用
|
2,850
|
借方科目
|
借方金額
|
貸方科目
|
貸方金額
|
給料手当
|
XXX
|
預金
|
XXX
|
預り金
|
900
|
概算保険料納付時の仕訳処理
続いて、7月1日に概算保険料を納付した場合は次のとおりです。つまり4~6月分の未払労働保険料相当額は支払ったので流動負債を打ち消し、7~翌3月分の未精算労働保険料は事業主負担分を前払費用、従業員負担分を立替金として流動資産にしておきます。
借方科目
|
借方金額
|
貸方科目
|
貸方金額
|
未払費用
|
8,550
|
預金
|
45,000
|
預り金
|
2,700
|
||
未払費用
|
8,550
|
||
預金
|
45,000
|
※実際には前年度分の概算保険料の精算と一般拠出金の納付もしますが、ここでは無視しています。
その後7月、8月、9月と賃金実績が確定してくると労働保険料も実質的に確定します。したがって次のように前払費用と立替金(流動資産)を取崩して費用配分していきます。
借方科目
|
借方金額
|
貸方科目
|
貸方金額
|
法定福利費
|
2,850
|
前払費用
|
2,850
|
借方科目
|
借方金額
|
貸方科目
|
貸方金額
|
法定福利費
|
2,850
|
前払費用
|
2,850
|
なお、場合によっては概算保険料で立てた前払費用や立替金の残高がマイナスになることもあります。
つまり概算保険料納付時の見込みよりも、賃金実績が大きい場合です。この場合、確定保険料として精算するときに納付するわけですから、流動負債が生じます。
したがって残高が不足する分については、事業主負担分は未払費用、従業員負担分は預り金とするのが相当です。
そして翌年7月1日頃に確定保険料として精算するとき、概算保険料よりも賃金実績が大きい場合には未払費用と預り金を追加納付によって精算することになります。前述の一般拠出金も法定福利費として処理しましょう。
借方科目
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借方金額
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貸方科目
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貸方金額
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未払費用
|
XXX
|
預金
|
XXX
|
預り金
|
XXX
|
||
法定福利費(一般拠出金)
|
XXX
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なお、逆に見込みより賃金実績が少ない(立替金と前払費用が残った)場合は、来年度の保険料に充当するか、還付を受けるかどちらかを選びます。
2021年生まれ。 BPOや業務効率化など企業成長のためになることがすき。 特にスタートアップやベンチャーなど新しいことに挑戦している人たちを応援するのが生きがい。 知りたい情報のリクエストも受け付けてます!
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